従業者名簿とは?風営法で義務付けられる理由と立入検査について
2025年6月28日、風営法が大きく改正されました。無許可営業への罰則強化、色恋営業の規制など、業界に激震が走る内容です。そして改正初日、新宿歌舞伎町のガールズバーで無許可営業の摘発が行われました。経営者は逮捕され、全国ニュースとなりました。
この厳格化の流れの中で、より一層重要性を増しているのが「従業者名簿」です。警察の立ち入り検査で、必ず最初に確認される書類。この小さな書類一つで、お店の信頼が決まると言っても過言ではありません。
なぜ従業者名簿が必要?
従業者名簿は、単なる「形式的な書類」ではありません。風営法において、この名簿の作成が義務付けられている理由は明確です。
理由1:18歳未満の就労防止
風俗営業では、18歳未満の就労が厳格に禁止されています。過去には、年齢確認を怠った結果、18歳未満を雇用してしまい、経営者が一年以下の拘禁刑若しくは百万円以下の罰金、もしくはこれを併科される可能性があり、実際にこういった重い処分を受けた事例が多数あります。
従業者名簿で住民票と身分証明書を確認することは、「知らなかった」では済まされない致命的なリスクを防ぐための最も基本的な防衛策なのです。
理由2:外国人の不法就労防止
在留資格を持たない外国人、または就労が認められていない在留資格(観光ビザなど)で働かせることは、不法就労助長罪として経営者も処罰されます。さらに、在留資格が「留学」や「家族滞在」の場合、資格外活動許可があっても風俗営業での就労は一切認められません。従業者名簿で在留カードを確認し、適切な就労資格を持っているかチェックすることが不可欠です。
理由3:警察との信頼関係構築
従業者名簿がきちんと整備されているお店は、「法令を遵守して営業している」という証明になります。立ち入り検査で従業者名簿を速やかに提示できれば、警察も「このお店は信頼できる」と判断し、良好な関係が築けます。
「従業者名簿」とは何か
風営法第36条で義務付けられているこの書類を「従業者名簿」と言います。なぜ「従業員」ではなく「従業者」なのか?それは、雇用契約を結んだ正社員やアルバイトだけでなく、業務委託契約のキャストや派遣スタッフなど、お店で業務に従事する人全員が対象だからです。
つまり、1日体験入店の子も、週1回しか来ないキャストも、全員が対象。「たまにしか出勤しないから名簿に載せなくても大丈夫」という考えは完全にNGです。
対象となるお店
従業者名簿の作成が義務付けられているのは、下記の店舗です。
- キャバクラ、ホストクラブ、ガールズバー(風俗営業1号)
- スナック、バー、居酒屋で深夜0時以降も営業する店(深夜酒類提供飲食店)
- パチンコ店、マージャン店
- ゲームセンター、アミューズメント施設
- 性風俗店(一部を除く)
対象となる「従業者」の範囲
「業務に従事する者全員」とは、具体的に誰を指すのでしょうか。
従業者名簿が必要な人
- キャスト(正社員・アルバイト・業務委託すべて)
- ボーイ・黒服
- 店長・マネージャー
- 清掃スタッフ(店内業務に従事する場合)
- 体験入店者
- 1日だけのヘルプ
従業者名簿が不要な人
- 経営者本人(別途、許可申請時に届出が必要)
- 外部業者(設備メンテナンス、清掃業者など、店舗業務に直接従事しない者)
警察が見ているポイント
立ち入り検査で警察が従業者名簿を確認する理由は明確です。それは、お店が法律を守って営業しているかを判断する最も基本的な指標だからです。
健全に営業している場合、警察も従業者名簿くらいしかチェックするところがないので、そこだけ確認して帰っていくことがほとんどです。逆に言えば、従業者名簿がしっかりしていれば、警察との良好な関係が築けるわけですね。
しかし、不備があった場合は話が変わります。一度不備が見つかれば「この店は大丈夫か?」と警察の心証が悪くなり、比較的短いサイクルで再度立ち入りが来る可能性が高まります。
必須記載事項
従業者名簿には、以下の7項目を必ず記載する必要があります。警察署によっては、形式が整った用紙を配布してくれます。
- 氏名(本名)※源氏名ではありません
- 住所
- 生年月日
- 本籍(日本人の場合)または国籍(外国人の場合)
- 採用年月日
- 従事する業務内容
- 退職年月日(退職後も3年間は保管義務あり)
添付書類の重要性
従業者名簿には、必ず以下の書類を添付します。
- 本籍地が記載された住民票(マイナンバー・住民票コードは記載なし)
- 写真付き身分証明書のコピー(運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど)※本人確認のため実務上必須
よくマイナンバーカードや運転免許証のコピーだけで足りると勘違いされがちですが、まったくの誤解です。風営法上は、国籍を証する書類を要求しています。当然、マイナンバーカードや運転免許証には国籍の記載はありませんよね。よって、本籍地記載の住民票を必ず従業者名簿と一緒に備え置いておきましょう。
また、住民票には顔写真がないため、本人確認として不十分です。実務上は「住民票 + 写真付き身分証」の2点セットが標準となっています。
本人確認の徹底
面接時には必ず写真付き身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード、パスポート)を確認し、本籍地が記載された住民票(原本)を取得してもらいましょう。
外国人の場合は?就労資格確認を忘れずに
- 在留カードまたは特別永住者証明書(必須)
- 国籍を証明する書類(住民票など)
在留カードには「就労制限の有無」が記載されています。以下の点を必ず確認してください。
- 在留資格の種類(「留学」「家族滞在」などは原則就労不可)
- 資格外活動許可の有無(ただし、風俗営業では不可)
- 在留期限(期限切れは不法就労)
※たとえ資格外活動許可があっても、風俗営業(キャバクラ、ホストクラブなど)での就労は一切認められません。違反した場合、経営者も不法就労助長罪(3年以下の懲役または300万円以下の罰金)で処罰されます。
18歳未満雇用は絶対禁止
風俗営業では、18歳未満の就労が厳格に禁止されています。万が一18歳未満の者を雇用した場合、1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、又はこれを併科されます。
「知らなかった」では済まされませんので、必ず顔つき身分証明書で本人確認を行いましょう。慎重すぎると思われるかもしれませんが、お店を守るためには必要な確認事項です。
履歴書との違い
よくある勘違いが「履歴書があれば従業者名簿は不要」というもの。これは完全な誤解です。
履歴書は従業員が面接のために作成するもの。一方、従業者名簿は採用後にお店側が作成・管理する法定書類です。履歴書をファイルに入れているだけでは、従業者名簿設置義務違反となります。
ナイトビジネスで働く方の中には身分を隠したい方もいますが、お店側がしっかり本人確認をしないと、18歳未満の雇用など致命的なリスクが生じます。「従業員任せにしない」ことが、お店を守ることにつながります。
よくあるトラブル事例
ケース1:仮採用だから…
仮採用でも、体験入店でも、1日だけのアルバイトでも、接客をする以上は従業者名簿の作成が必須です。例外はありません。
ケース2:週1回しか来ない子
「この子は週1回しか出勤しないから、従業者名簿に載せなくても大丈夫ですよね?」という相談は、行政書士のところによく寄せられます。
答えはもちろん「NO」。出勤頻度に関わらず、業務に従事する者全員が対象です。
ケース3:電子データだけ
「パソコンに全部入ってます」と言って、紙の名簿を用意していなかったケース。電子データでの保管は法律上認められていますが、条件があります。
風営法施行規則第107条により、「必要に応じて直ちに表示または印刷できる状態」であることが必須です。立ち入り検査の際、店長がパソコンのパスワードを忘れていて表示できなかった…なんてことがあれば、やはり不備となります。
保管場所と管理方法
従業者名簿は、店長が不在のときでもアルバイトスタッフがすぐに提示できる場所に保管してください。ただし、重要な個人情報が含まれているため、売上の現金と同様に鍵のかかる金庫での保管が推奨されます。
複数店舗がある場合は、各店舗ごとに名簿を作成・保管します。本社で一括管理ではなく、それぞれの店舗に備え付けることが労働基準法でも求められています。
保管期間
従業者が退職してから3年間は保管義務があります。特に風営1号店(キャバクラなど)では、退職者から従業者名簿の返却を求められることもありますが、法律で店舗管理と定められているため、返却する必要はありません。
ただし、退職者の個人情報ですので適切に管理し、3年が経過したら確実に破棄してください。破棄する際は、シュレッダーにかけるなど、情報漏洩がないよう配慮が必要です。
名簿の更新タイミング
従業者名簿は「作って終わり」ではありません。以下のタイミングで必ず更新してください。
- 新規採用:採用日当日から必要(体験入店も含む)
- 住所変更:遅滞なく更新(新しい住民票を取得)
- 退職:退職日を記入し、3年間保管
特に注意すべきは、体験入店や1日ヘルプでも、その日から従業者名簿が必要という点です。「後で作ればいい」は通用しません。
電子データでの保管
風営法施行規則第107条により、電子データでの保管も認められています。ただし、以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 必要に応じて直ちに表示または印刷できる状態
- パスワード保護必須
- アクセス権限の設定(管理者のみ閲覧可能など)
- 定期的なバックアップ取得
- 個人情報保護の観点からの適切な管理
立ち入り検査時にパスワードを忘れていた、パソコンが起動しなかったなどの理由で表示できない場合は、不備とみなされます。電子データで管理する場合でも、印刷して紙でも保管しておくことを推奨します。
立ち入り検査時の対応
警察の立ち入り検査は予告なく行われます。その際の対応を誤ると、さらなる問題を招きます。
正しい対応
- 警察官の立ち入りを拒否しない(拒否自体が違反:100万円以下の罰金)
- 従業者名簿を速やかに提示
- 質問には正直に答える
- 不備を指摘されたら素直に認め、改善を約束
- 店長不在でも対応できるよう、スタッフに保管場所を周知
絶対にやってはいけないこと
- 立ち入り検査を拒否または妨害する
- 虚偽の説明をする
- 従業者名簿がないのに「ある」と言い張る
- 証拠隠滅を図る
誠実な対応こそが、警察との信頼関係を築く最善の方法です。
罰則について
従業者名簿に関する違反があった場合、風営法第53条により「100万円以下の罰金」が科される可能性があります。具体的には、従業者名簿を備えていない、必要な記載をしていない、虚偽の記載をしたといったケースです。
従業者名簿の不備のみで逮捕されるケースは実務上ほとんど聞いたことがありませんが、とはいえ一度不備が見つかれば指示処分を受けます。そして何より、警察との信頼関係が損なわれることが最大のリスクです。一度「この店は管理が甘い」と判断されれば、頻繁に立ち入り検査が来るようになり、営業に支障をきたします。
まとめ:意外と重要な書類です
2025年の風営法改正により、業界全体の監視が厳格化しています。その中で従業者名簿は「形式的に備え付けておく書類」ではなく、店舗が法令を遵守して営業していることを示す最も基本的な管理書類として、これまで以上に重要性を増しています。
警察の立ち入り検査では、従業者名簿の整備状況が、店舗管理体制を判断する最初の指標となります。名簿が適切に作成・更新・保管されていれば、過度な指導や再検査につながる可能性は低くなります。一方で、不備があれば、未成年就労や不法就労といった重大な違反を疑われるきっかけにもなりかねません。
重要なポイントをもう一度
- 業務に従事する者全員が対象(体験入店・1日ヘルプも含む)
- 名簿用紙・住民票・写真付き身分証の3点セットで保管
- 18歳未満の雇用は絶対禁止(1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)
- 外国人は在留資格を必ず確認(風俗営業では就労不可の資格あり)
- 店長不在でもすぐ提示できる場所に保管
- 退職後も3年間は保管、その後は適切に破棄
- 電子データの場合も即座に表示または印刷できる状態を維持
- 各店舗ごとに作成・保管
- 立ち入り検査の拒否は100万円以下の罰金
制度の運用や判断基準は、地域や警察署によって細かな違いが生じることもあります。従業者名簿の作成方法や管理体制に不安がある場合、あるいは立ち入り検査で指摘を受けた場合には、早めに風営法に精通した専門家へ相談することをおすすめします。
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